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東京高等裁判所 昭和59年(ラ)319号 決定 1984年9月07日

抗告人

セントラル資材株式会社

右代表者

中村光伸

右代理人

榎本精一

井上壽男

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一抗告代理人は、「1、原決定を取り消す。2、債権者(抗告人)の申立てにより別紙請求債権目録記載の請求債権の弁済に充てるため、別紙担保権目録記載の先取特権(物上代位)に基づき、債務者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえる。3、債務者は、前項により差し押さえられた債権について取立てその他の処分をしてはならない。4、第三債務者は、第2項により差し押さえられた債権について債務者に対して弁済をしてはならない。」との裁判を求め、その理由の要旨は次のとおりである。

原審は、抗告人提出の文書によつてはいまだ抗告人主張の担保権の存在を証するに足りないとして本件申立てを却下したが、抗告人提出の文書によれば右の担保権の存在は十分証明されているものというべきであり、原決定は事実の認定又は民事執行法一九三条一項の解釈を誤つた違法があるから取り消されるべきである。

二当裁判所の判断

民法三二二条、三〇四条により動産売買の先取特権を行使するため債務者の第三債務者に対する売買代金債権を差し押さえるには民事執行法一九三条一項にいう「担保権の存在を証する文書」の提出がなければならないところ、右の「担保権の存在を証する文書」とは、私文書でも構わないが、文書自体で担保権の存在が証明されるものでなければならず、疎明では足りないものと解するのが相当である。

そこで、抗告人の提出した文書が抗告人主張の動産売買の先取特権の存在、すなわち抗告人と債務者との間における本件物件の売買(以下「本件売買」という。)の事実を証明するに足りるものであるか否か検討する。

第三債務者株式会社総合物産代表取締役広沢賢一作成の証明書(昭和五九年六月六日付及び同月二〇日付)及び相武生コン株式会社代表取締役加賀建治作成の証明書によると、第三債務者は本件物件を債務者から買い受けたこと、相武生コン株式会社は抗告人の発注を受けて本件物件を第三債務者に直送したことを認めることができる。しかし、右の第三債務者作成の証明書には、「貴社(抗告人)が信和物産株式会社に売却された……」(昭和五九年六月六日付)、「(本件物件は)相武生コン株式会社から順次神奈川生コンクリート協同組合、セントラル資材株式会社、信和物産株式会社を経由して販売されたものであり、この販売経路は当社及び上記関係者間で予め合意されているものである……」(同月二〇日付)との記載があり、一応本件売買の事実を窺わせるが、その具体的内容について触れるところはなく、また予めなされたとされる合意の内容を裏付ける文書も添付されていないから本件売買を証明するにはいまだ不十分であるといわざるを得ない。

また、成約明細書(控)、売上帳及び請求書には本件売買に基づく売上げ、売買代金の請求、販売形態等の記載があるけれども右各文書はいずれも債務者が関与することなく抗告人側で一方的に作成した文書であるから本件売買の事実を証明するに足りないこと明白である。

よつて、抗告人提出の資料では「担保権の存在を証する文書」の提出があつたとはいえないとして、本件債権差押命令の申立てを却下した原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(磯部喬 大塚一郎 佐藤康)

担保権・被担保債権・請求債権目録

一 担保権

下記二記載の売買契約に基づく動産売買の先取特権(物上代位)

二 被担保債権及び請求債権

金一、六六一、三五〇円

債権者が昭和五九年四月二日から同月二八日までの間に債務者に対し別紙売渡一覧表のとおり売り渡した商品の代金債権

差押債権目録

金一、六六一、三五〇円

ただし、債務者が昭和五九年四月二日から同月二八日までの間に第三債務者に別紙転売一覧表のとおり売り渡した商品代金債権の内金

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